大会長挨拶

 このたび第5回の日本VADコンソーシアム研究集会の会長を拝命し、光栄な機会を頂いて皆様に深く感謝するとともに、責任の重さに緊張致しております。今回の研究集会は東京の三田にある慶應義塾大学キャンパス内のファカルティハウスを会場として、令和元年12月7日に開催致します。

言うまでもなくこのコンソーシアムは、輸液デバイスの選択や挿入・管理技術の標準化と安全性向上を目指して発足し、前身となるVADガイドライン策定ワーキングの段階から、成人・小児の診療科、感染対策、薬学、看護学など多くの領域の参加で議論が進められてきました。これを受けて毎年の研究集会では、VADに関する安全を軸に、諸領域の一般的な議論に加えて感染対策、安全対策など各年度の重点的課題が討議されております。わたくし自身は小児外科医であり、今回の研究集会では従来の議論に加えて、これまでとは若干異なる小児の視点からの情報発信や、小児も交えた議論も取り入れて、この研究集会を盛り上げたいと考えております。

小児領域では先天的な消化管蠕動障害の症例の治療、管理は重要な課題の一つです。わが国の消化管蠕動障害に関する研究レベルは世界的にも高く評価されており、小児外科施設を中心に多くの先天的な消化管蠕動障害による腸管不全症例が管理・治療を受けています。このような症例では中心静脈へのカテーテルアクセスルートは文字通りの命綱であり、出生直後から生涯的な見通しを勘案して管理してゆかなければなりません。今日では移植医療も選択肢に入るようになりましたが、わが国の小腸移植症例総数は30例ほどに過ぎません。小腸移植の背景疾患は欧米では短腸症候群が多いのに対してわが国では先天性腸管蠕動不全が過半数を占めており、欧米とはやや異なる道を進んでいる感があります。このような状況に鑑み、新たな輸液デバイスの挿入手技も開発・試行されておりますが、これらは標準的治療とは対極をなすものです。慶應義塾の祖、福沢諭吉は「異端と先導」と言う言葉を使っておりますが、目的を達するために異端とも思われる手段に挑戦し、それを標準化に向けて先導してゆくことが求められる分野です。本研究集会も5回目を迎え、このような意味でVADの新たな展開にも光を当てることが出来れば幸いに存じます。

これまで事務局はじめ多くの方々に助けて頂いて準備を進めてまいりました。慶應義塾大学の三田キャンパスはキャンパス全体が丘の上にあり、福沢諭吉が築地鉄砲洲、芝新銭座を経て移ってきた当初の歴史的な雰囲気の残る場所です。できるだけ多くの方にご参加頂いて、充実した研究集会と都内に残る明治の歴史の雰囲気を楽しんで頂ければと思います。

        日本VADコンソーシアム 第5回研究集会
         黒 田 達夫
   慶應義塾大学 小児外科

日本VADコンソーシアム(J-VADC)はガイドラインに基づいた輸液治療のあり方について提案します